梨『霊媒クラブ』を読んだ。
一言で言えば「オカルト趣味者の『都市伝説解体センター』」だった
これは紛れもなく、褒めだ
『都市解』の乗り越え
以前書いたような気もするが、私は『都市解』にモヤモヤとした不満足感を抱いていた
『都市解』の、オカルティックな事象を次々とクライム・サスペンスな真相に「解体」する物質主義的世界観は、(悪い意味で)現代的・大衆的だと私は考えている。
『都市解』で対立構造にある「センター」らと「SNS上の扇情的な陰謀論者」らは、「持っている複数の情報を繋ぎ合わせて論理を組み立て真実を暴く」という推理の構造のみを取り出せば、全く同一である
しかし状況証拠の組み合わせにすぎない「センター」の推理は、自白や主人公の内的確信によって「真実」であることが明らかになり、付随的にSNSの誤謬も明らかになる。
物語序盤に世界に溢れていたオカルトは全て物質主義的に「解体」され尽くす。
せっかく都市伝説を題材としているのに、その体験性・世界観を利用せず、内奥に潜む犯罪を暴くために引き裂かれるヴェールとしてのみ取り扱っているのだ。
そのヴェールの「ひだ」にこそ、オカルトないし都市伝説の醍醐味があるにも関わらず...
『霊媒クラブ』の特性
この『都市解』が切り捨てた「語り」の一種の暴力性に、物質的世界観の優位性としかしその内奥に潜んでいるかもしれない超自然的事象に目配せしているという点で、『霊媒クラブ』は「オカルトを対象としたフィクション作品」として評価するに相応しいだろう。
本作は「オカルト現象を捏造し、それを自作自演で(物質主義的方法で)解決し、好成績を得ようとする一般学生ら」と「彼らのマッチポンプを防ぐため、より早く(物質主義的方法で)解決する生徒会執行部」という対立構造を持つ、奇妙な中学校を舞台とした学園ミステリー作品である。
あれ?この作品もめちゃくちゃ物質主義じゃんと思うかもしれないが、初めから終わりまで
「『解決』は『怪異の正体を突き止める』ことじゃなくて『怪異が人為的に再現可能であると示す』って意味」(p.54)
「僕たちがしているのは、怪異の解決です。怪異の正体の解明ではありません」(p.382)
と自らの行為の欺瞞性、というと言葉が強すぎるが「それがある一つの語りにすぎない」ということ、に自覚的である。
これは洒落怖・SCP出身の作家で、ホラー系の作品をメインに執筆している「梨」の作家性ゆえのものであろう。
不満点
しかし不満もある。「キャラクター性の掘り下げが不十分」である点である
本作はいわゆる「キャラもの」であると作者が公言しているし、実際各章ごとに主人公のパートナー枠が異なり、毎回掘り下げが行われる。
キャラごとに「霊媒」行為の受け取り方・取り組み方が違うという仕方で、キャラクター性を出している点に、努力が認められる。
しかし「なぜ双柳は生徒会長に立候補したのか」「常森が怪異に興味を持つようになったきっかけは何か」など、各キャラクターに人間的に親しみを持てる設定はあまり登場せず、記号的なキャラクター性ばかりが前面に押し出されている。
またメインで登場する章は大抵各キャラ1章程度で、他の章では端役程度である。せっかくキャラが好きになっても「でももうあんまり出てこないんだろうな〜」と思ってしまう。
仕方のないことである。なぜなら本作はキャラものであると同時に、ミステリー物でもあるのだから、事件描写・状況整理・推理にページ数を割かねばならないのは当然だ。
なのでどうにか頑張って日常描写を入れ込み、その体験をキーとして推理を組み立てる展開は、この両者を両立させるために必要不可欠なのだ。
各キャラの掘り下げは、続編があれば期待すべきところだろう。
続編のテーマは「ある生徒会役員の家系と当地区の怪異との、奇妙な結びつき」か?